砂原WORKS ~column~ of 海と砂原美容室

「今日よ、メルシーボークー!」

2012-02-02

≪season 3≫

「フー、フー、フー」

 フランスではココアを「ショコラショー」と発音する。老舗高級カフェでも現代的カフェでも決まって人気メニューであり、日本のものよりもカカオが多くて重い食感。パリジェンヌがショコラショーを冷ましながら飲む姿は、なぜか素敵に映る。

 パリのシャルル・ド・ゴール国際空港から、さらに2時間飛行機を乗り継いでニースへ。カンヌ国際映画祭での仕事のために今回は入国した。

 毎回のことだが、海外でのヘアメイクの仕事は荷物が多い。電圧が違うので変圧器とフランスのコンセントに対応するプラグも用意する。ドライヤーやアイロンを持ち込むとなるとかなり嵩張り、オーバーバッケージを毎回気にしてヒヤヒヤと出国。

 今回の仕事は、オダギリジョー、チャン・ドンゴン、ファン・ビンビンが共演する日本× 韓国× 中国共同制作の大作映画『MYWAY』(カン・ジョギュ監督)の制作報告会のヘアメイクである。予算のある大作映画は、来年の出品に備え、前年から贅沢に宣伝活動を行う。この映画もその流れで、すぐに買い手も多く決まり、反応も大きかった。

 通りが賑わう今日は、ジョニー・デップがレッドカーペットに登場。前が見えないほど混雑している場所には大体大物がいて、ショータイムは盛り上がる。私たちは海辺を見下ろす古城でヘアメイクの仕込み、そのまま取材&宣伝に入る。今日も海外メディアが山ほど詰め寄り、いろいろな国の言葉が飛び交っている。そんな中で、自分に何かできることはないかとあれこれ探してみる。なんだか美容師アシスタントの仕事と似ていて、昔の苦さを思い出した。今ではいつのまにかサロンの仕事も落ち着いてこなせるようになり、撮影でも流れが読めるようになった。変に慣れはないが、焦りもなくこなしてしまう。

 私にとって海外の見知らぬ場所での仕事は、その土地の知識が浅いのとフランス語のヒアリング力も弱いからこそ、意識が研ぎ澄まされ、感覚がむき出しになる。たくさん聞き取れないから心で聴く。人の動きを見て状況を掴む。空気を読むために、いつもよりアンテナを張る。誰も日本語で説明してくれないから感じ取るしかない。四面楚歌の舞台でも良い仕事をして結果を出していかなければ、マネージャーやスタイリストやカメラマンも、共通して次はない。もうオファーはないものだ。

 初めて仕事でフランスに来た時は、自分はなんて無知なんだとかなりヘコみ、苦い気持ちのままホテルに帰って反省していたものだった。本日のダイジェスト、レッドカーペットのショータイムを見ながら、ルームサービスで甘くて優しいショコラショーを注文。1日の緊張を解きほぐす。

「フー、フー、フー」

 仕事のいろんな辛さも吹き飛び、今夜も癒され完全完治でリセット。明日もニッコリ。

「メルシーボークー!」
                                         ~ おわり ~
                                                                                         2011,⑨月刊, BOB より      

「ボタニカル・コレクション」

2012-02-02

≪season 2≫

 千葉の南房総にある海と砂原美容室の南には海が広がって、東には山が立っている。まさに自然のオンパレード。都内で週の半分ヘアメイクの仕事をしていると、その環境差にパニックにならないよう、都内の私と南房総の私とにスイッチが分かれているような気がしてならない。都内のビルのジャングルをめくるめく走り抜け、海の道アクアラインを越えると間もなくあるこのサロンは、絶好のヒーリングスポットであることに間違いはない。

 サロンに着くまでの景色は次々と変化し、大きく広がる山藤はまるでモダンな髪飾り。熱帯植物のヤシやアロエ、ヤツデなどはスーパーモデルのエッジなアップスタイルようで、ファッションショーのコレクションさながらである。

 最近、世間では「ボタニカル」(botanical)という言葉がよく取り上げられている。ざっくり園芸や植物という意味を指す。緑や土はやっぱり癒される不思議なものだ。

 海と砂原美容室のスタッフには撮影やコレクションを経験した者も多く、田舎にいても都会の感覚を上手く持ちつつ、特別なバランスで働いている。緑が好きな若者も増えて、休みの日には自分たちで田植えもはじめた。

 田植えでみんなが口々にしたことがある。「かなりクリエイティブ!」。本当にみんなが言うから楽しくなる。一見美容とはまったく関係ないようだが、表現者にとってはかなり魅力的なものである。緑あるもののにおいは脳にひらめきを与え、泥を踏む足の感触はエネルギーを呼び起こし、身体の芯の潜在能力を引き出す。自然と素直になって、パーソナルスペースなどどこへやら。全員はしゃいでしまうこの魔法に、とてつもない力を感じる。

 1人のスタッフが興奮してか、稲の行列に感化されて「ヘアスタイルのデザインがバンバン見える!」と言っていた。ヘアスタイルがどんどん出てきたり、流れるようにデザインが生まれてくるとは、素敵なコレクションさながらのスプラッシュ状態。自分の脳でデザインが次から次へウォーキングしていくなんて、なんて素敵なショータイム!

 若いからこそいつもと違うことを探して必死にチャレンジしてほしい。感受性を高め、気づき、ひらめきを楽しむ。そこを出すか出さないかが、凡人か天才か、生き方の分かれ道ではないか。科学的にも身体を動かすのは人間の脳の能力を最大限に引き出すスイッチになるようで、きっかけは何でもいいのだから、天才か凡人か、飛び出すか出さないか、自分で決められる自由さを無駄にしないで。忙し過ぎておいてかないで。脳力と能力を。

 歳をとって身体が動かしづらくなり、机で考えるようになる時に、ひらめく力の強弱は、若い時の奇跡のひらめきの多さに比例するのではないか。愛を受けて光を目指し、未来にしっかり根を張りめぐらせよう。奇跡に出くわし、気づき、ひらめき、自分のステージに飛び出してほしい。ずっとずっとこれからも、育つ力を愛することを、大人たちが弱めることがないように。そうだ、まるで、大地に身を纏わるような静かな心で、次々に続く青年たちを、しっかりと見守りながら、微笑みながら。
                                                                                               2011,⑧月刊, BOB より                                                                                         

「鼻の利く男たち」

2012-02-02

≪season 1≫

「クン、クン、クン」においを嗅ぎ分け30年、歩んできた道イバラ道。そんな男たちが、私の周りには多く存在する。

 4年ほどルックスのチェックを熱くアドバイスをしてきた女子ミュージシャンがデビューすることになり、今日はそのアーティスト写真の撮影である。パートナーは、木村カエラちゃんをプロデュースしている上品でグランジな50代メンズ。
「エッジが効いたので」とほぼおまかせなフレーズを言ってくるが、自由そうに見せて本当の良さを見抜きにかかる敏腕プロデューサーである。見るからにやり手なその目や感覚を研ぎ澄ます様子は、こちらも遠慮せずに飛び込める。むしろ出過ぎなければ次のオファーはない。しかし、思いっきりデザインしてどれだけのプレイヤーなのか見定められるのは快感でもある。

 デビュー前のアーティストは、曲の印象はもちろんだが、イメージのルックス決めが一番の勝負所になる。まさしく敏腕プロデューサーとのクリエイティブワークがそこには存在する。

 カメラマンを決めるのも私で責任重大。その仕事が気に入らない場合、私のヘア&メイクは関係なくとも、私との次回の仕事のオファーは途切れる。プロデューサーとして入るということは撮影をコーディネイトする立場に置かれるわけで、それぞれのセンスを見極めて起こりうるいろいろな問題に事前に気づき対処して、はめ込んでいく作業だなと思う。

 ヘアメイク業とプロデューサー業を両立しているが、タレントの将来を創るのは胃がキリキリしながらもとっても楽しい。デビューして2年もすると、その世界でしっかり感動させる人になる。私はそれに一番幸福感を覚え、育てることにエネルギーを注ぐ。

 サロンスタッフにも同じフィルターでいつもエールを送り続けている。入りたてのスタッフにはプロデュースされるのに少し戸惑う子もいる。される方も他人からの目線を客観視でき、素直で大人な目線を持っていないと成立しないから。

 海と砂原美容室の美容師のプロデュースは、技術はもちろん、いろいろな教育もしている。サロンでの歩き方や服装の社内チェックや購入、目線と動きのバランスでの印象や言葉語尾のトーンで出る人格(キャラ)決め講座など、美容のスペシャリストを育てるための知的レベルの育成に力を入れている。お店のスターとして個々を確立し、楽しく美容人生を歩んでほしいからたくさん話して決めていく。

 私自身も鼻の効く男たちにいろいろと学ばせてもらってきた。彼らはほとんど好みや気分を面に出さず、良いことに向かって真っすぐ来る。どう創ってどう育てていくと息の長いスターになるのかを経験的に熟知している。それでも柔軟に時代の流れをザクザクと取り入れる。圧力のない素振りをして、実は重圧な責任を纏っている。何億というプロジェクトにも関わらず、サラリとしながら深いところで勝負する。

 彼らに選ばれ関わっていきたいし、そんなスタッフを育てたいと思うから、母でありながら仕事と両立する。娘の成長と同じようにスタッフの成長を喜ぶ。今まで育てたアーティストの方々がメディアで活躍するのが本当にうれしいから、魂が喜ぶ仕事をここに見つけて喜ぶ日々。

 こんな毎日の中、娘の夜泣きも続いてくると持病の鼻炎も酷くなり、匂いもまったくわからなくなってくる。そんな女が「クン、クン、クン」と鼻の効く男たちを真似たフリして時代を嗅ぎわけながら、知的感度とDNAで勝負する!

                                                                                              2011,⑦月刊, BOB より                                                                                         

うみすなの日々⑩

2012-02-02

≪コラム≫
~ 「学育」のススメ② ~

空を水色と例えるか否か――。スタイリストになった頃、教育現場でよく同期と話が尽きなかったことを思い出す。

 その同期は私に空色と教えるべきだと言っていたが、私は討論するには難しいと思っていた。

 美容は答えが1つでなくても良い。答えは2つでも、3つでもあり、スタイリストそれぞれの理解がそれぞれのお客さまの気持ちを掴む。

 しかし、空色と1つにしてしまうことで教える側の統一感から教わる側の安心感につながるのも確か。教える人数も減らせる。時間も少なくて済む。私もそうやって迷わずにこれたのだから、同期の論点は間違っていない、正論だ。

 それでも、店を持ってオーナーになると、教える「教育」で終わらせず、自分で学ぶ「学育」も目指したい。空を黄色で塗ってしまうのも、心秘かに期待している。

 美容のおもしろさを見つめる姿勢を与えることで、仕事に興味がでる。

 興味が出たら、一緒に考えさせる。

 考えてやるから、発見が多い。

 発見が多いから、もっと知りたくなる。

 知りたくなるから、練習する。

 練習するから、上手になる。

 上手になるから、誉められ楽しくなる。

 楽しくなるから、研究する。

 研究するから、脳を試す楽しさを知る。

 そして、空にキマリを感じなくなるボーダーラインがそこには存在する。

 私はそれを学育と思う。学育ができると職業に退屈をしない。

 疲れた時は深く伸びやかに呼吸し、上を向き口角を上げる。そしてまた心を強く構え進んでいく。

 繊細な対処を百にも千にも持ち合わせ、常にまだまだ面白くと、心躍らせたくましく、次の自分へ進んでいく。

 そんな「学育」を淘汰した若者こそ、強きNEXT LEADER ではないか、と次の時代に期待して。

                        終

                                                                                    NOV. 2011. ⑩月刊 NEXT LEADER より                                                                 

うみすなの日々⑨

2012-02-02

≪コラム≫
~ 「学育」のススメ ~

美容師は人間力をはかられる職業。

 技術が上手でも売上が伸び悩んでいたり、接客をさせても自分主体な話でお客さまに気を使わせてしまったり。技術があって、カッコ良くて、やさしくて。それだけでもダメなのが、スタイリスト教育の難しさなのだとつくづく思う今日この頃。

 そんななかで、私がスタッフに伝えてきたことの1つに『自身のセルフプロデュース』がある。

 会社はそれほど世に売り込んではくれないもの。美容界も芸能界もそれは一緒。常に客観視できた自身の売りを、つまり個性をしっかりと自分自身で把握していて欲しいのだ。個性があるからこそ必要とされる人となり、自信を得るために日々練習に励むのだ。

 海と砂原美容室ではありがたいことに撮影の機会も多く、編集部の方々のご理解の上、アシスタントを雑誌に出させる機会も少なくない。

 彼女たちもメディアに出ることで、見られる意識からか自分たちの役どころを把握していく。サロンワークでもまるで1人のお客さまが映画の主人公で、自分がどう存在すべきかを考えるようになる。すると、どんなに忙しくても流れ作業はできなくなり、暇なら体の動きを止めなくなる。つまり、立場をわきまえて努力するような人材に育っていく。きっかけは別に何でも良いのだ。撮影でなくとも、心と心で取り組み考えさせることで大きく変わってくる。

 所狭しと並ぶコンビニのお菓子棚。ほとんどはよく見る売上の高い商品で、その中に各メーカーの新商品を1点ずつ置くことを許されるらしい。 

 売上のある多くの個性派商品の中で埋もれないように、新しい個性をがっちり刻み込んだ新商品が新人スタイリストであり、希望の星である(お菓子にたとえるのもなんでが…)。

 自身の立場と売りを把握させられるなら何でもいい。何でもいいから勝負できる個性を見つけるために努力する。これが一番の真っ向勝負で、自分で考え自分で学ぶ「学育」なのだと思う。

                                                                                      NOV. 2010 ⑨月刊 NEXT LEADER より                                                                 

うみすなの日々⑧

2012-02-02

≪コラム≫
~ 着眼点のシフト ~

「ああ、今日もやっぱり、うらやましいわ~」

 最近、新宿から越してきたの。人気の伊勢丹まわりは外人さんも多いから、アクセサリーがけっこう光って眩しくて。

 私、光ものはちょっと苦手。

 おじいちゃまもその昔は田んぼで光る罠によく騙だまされたって言ってたわ。

 最近の青山はあんまり光ってないからいいのよね、シックで。クリスマスのイルミネーションはかなり引くけども。

 毎日のパトロールコースも決まっているの。もちろん仲間と一緒。友達のマーキーは青山から原宿界隈 をカバーしていて格好いいの。

 「あら、かわいい」

 原宿を行き交う人たちはいつもかわいい髪の色。サロンに入る前は黒髪なのに、出てきたら栗色や、部分的に葡萄色とかいつもオシャレ。

 私の業界がいつもブラックなのはプライド? それともポリシー? そうじゃないはずよ。だって、知り合いが他の娘の羽を差してるとこ見ちゃったもの。みんなカラーしたくて、みんな個性がほしいに決まってる。

 私的にイメージがあるのは、おでこは逆毛でカラーは赤。体は全体にホワイトのストライプでマリンのような着崩し感。

 ああなんて、スタイリッシュ。そんなカラスがいたらステキでしょ。

 時々、そんなカラスの気持ちを空想してみる。なんだかヘアカラーがさらに楽しく、無限の色使いに見えてくるから不思議。

 私のデザインイメージが広がるばかりか、下の子への教育に行き詰った時、そんな思考の気分転換も時にはとってもおすすめなのです。

                                                                                      OCT.2010 ⑧月刊 NEXT LEADER より                                                                 

うみすなの日々⑦

2012-02-02

≪コラム≫
~ サロン女子にはサプリな場所を ~

青山サロン勤務の女子はいつも忙しい。

 出勤日は早朝から撮影アシスタント。昼食もままならず、先輩スタイリストの目が光る中、技術に徹して10時間はサロンワーク。笑顔も大事な仕事と男子より愛想も重要視され、他のアシスタントといつも比べられる。夜も深く、朝までもう少しな時間帯。眠い体を横に倒すとマニキュアが剥はがれていることに気がつき、リムーバーコットンをこすりながらも寝てしまう有様。そうしていつしかバリバリの仕事人サロン女子に完成してゆく。

 ある日の私は、いつもよりモデルスカウトに精を出していた。今月のノルマを1日で済ませ、来週は久しぶりに海辺の近くに住む彼氏の所へふらりと訪れたかったからだ。心のコンディションが悲鳴をあげてくると、心を休めに海を見に行っていた。

 何を隠そう、私は練習をあまりしなかった。練習を脳でするタイプ。通勤や移動、時間を見つけてはカットプロセスを妄想する。

 練習をしないから飲みの誘いも少なく、付き合いも悪かった。

 かなり厳しいことで有名だったサロンのテストもカットプロセスのイメージがはっきりしたら2日間がっつり切る作業を体に叩き込
んで挑んでいた。

 同世代より進みはよかったけれど、自分スタイルの練習法が当時は理解されず、優しい先輩は呆れながら「今日ぐらい練習しろや」と言ってくれる。うれしく受け止め、でもすいません。

 連日練習しても受からない愛嬌女子は付き合いも良く、可愛がられ、自分のなんとなくの馴染めなさに最高のダメージを勝手に抱いていた。

 そんななか、その日の私は都内を離れ、いつもの決まった海の見えるカフェに来ていた。店のオーナーは私の頼んだメニューの感想を毎回聞く。なんで? 神経質に見えたかな? オーナー神経質? とかいろいろと考えていた。

 すると、常連に連れられたお客に「あ、どうも。菊池です」とオーナーが自己紹介。『菊池さんて言うのね~』とそのとき初めて知った私だったが、そんな田舎ならではのニュース感に癒され、菊池さんのおかげで鬱うつ気味も治っていったのかなと笑みがこぼれる。

 サプリメントな場所はサロン女子にはたくさん持っていてほしいと思う。

 スタイリストになったら余裕を見せてほしいから、いつも幸せ女子でいてほしい。バリバリ頑張りモードでありながら、心の奥からにじみ出る柔らかな女子力で進んで行ってほしい。

 いつも一緒だからこそのスタッフに全部は理解されなくても良しとして、お客さまはいろいろと気づいてしまうもの。人間力は初対面ほど気づけるのだから。

 ピンチの時こそ背中の羽をおろして、海でもいかが? 多忙女子へのサプリメントは、適当にいい加減な鼻歌などが、本当にお勧め。

  Sep.2010 ⑦月刊 NEXT LEADERより

うみすなの日々⑥

2012-02-02

≪コラム≫
~ かみがかり ~

 最近スピリチュアルタレントの方がこんな南房総の田舎サロンを訪ねてきた。

 話を聞いてみると、どうやらこの土地がスピリチュアルスポットということらしい。三浦半島や南房総が良いとはTV で聞いたことはあるものの、この私有地が? 

 その方が言うには「このサロンでは、席に座るお客の背中から花が咲くように“球体の喜びの花”がふわっと咲く」そうで、「結界という聖なる線が見えてここにたどり着いた」らしい。

 けっかい? スピリチュアルって…。映画「陰陽師」が必要なら見ます的な私。事の成り行きをまったく理解できない私をおいて話は進み、確認は当主の父に託された。おもむろに話し出した父によると、どうやら砂原家2代目の当主が神主で祈祷をやっていたと言う。って、いきなりリアルなんすケド…。戸惑う私を気にもせず話を続ける父 富三。

 その後神社はきちんと小さく祀り上げられ、3代目は技術に魅せられ漆喰職人となり、4代目の父は技術屋の鉄道マンで母は美容師。砂原家5代目の私も美容師となり、神社を継ぐ者がいなかったらしい。

 この神はキレイになることを一緒に喜び、人や祭りが大好きで、人が集まるのを喜んでいるそうだ。姿カタチは見えないが、その神も一緒にキレイにしているのならとってもステキ。

 美容の仕事はお相手と時間を共有し、髪を通じて一緒に創る。髪に触れ、心を読んで、ライフスタイルを着て、そして髪と会話をしながらデザインをする。

 切り落とされた髪にはその方の過去の記憶が宿り、明日へのリセットも込めて未来を視て髪を切る。「今回の新しいご自身はいかがですか?」そんな風に、さらなる明るい未来への通過点としてお客さまを支えていけたらと思う。

 カランカランとドアベルが鳴る。入ってきた方のお顔を見ると、今日創るであろうヘアスタイルが見えるのはデザインの神様が私に見せているのかもしれない。かみとカミ。「やっぱり、かみさまの魔法だたったりして…」と今日もカウンセリングで確信しつつ、未だ半信半疑。
                                                                                                 AUG.2010 ⑧月刊NEXT LEADERより

うみすなの日々⑤

2012-02-02

≪コラム≫
~ リアルな価値 ~

 アマリリスはバランスの取れた花。

 清々しく1輪か2輪をつけて白く咲く花びらは上品で、内面からの大人っぽさを凛と主張する。そのままガラスの花瓶に生けるだけで十分絵になり、なにより、サロンの白い壁に伸びるすらりとした茎がセクシー。

 プロテアの存在感は異彩を放つ。

 デザインされたその花びら1枚1枚の重なりで、たった1輪でもブーケとして成立させてしまう。その容姿は少し毒っぽく、触ったらかじられてしまいそう。慣れ合いすぎない空気感だから私が最も惹かれる花でもある。

 花を活かす。

 サロンに花を生ける時、そのことを強く意識して空間とのバランスを睨む。花はあくまで我流でも、花と空間で魅力を引き出し合わせる過程がなんとも楽しい。花が落ち、ドライになった葉や種子があれば、また違う所に飾ってみる――。

 年齢とともに変わる環境を受け止め、自分自身に魅力を引き出し合える空間や環境を見つけていけたらと思っている。スタッフのみんなにも、魅力を引き出しあえているのか、カクニンシナガラ暮らしていく。

 スタッフの育成は野生すぎず、水耕栽培まで手をかけない。素材を活かすように育て、温室でないとダメな子であれば、今の時代は温室を用意しても良いだろう。他の子よりも柔らかい花びらを大きく広げるためには、温室だって必要なのだ。

 プロフェッショナルが育つにはその子に合った条件が必要だと思う。今までのような、ふるいにかけて強く育てる教育からどの業界も変わってきている。リアルな価値の創造を目指し、ブランドや人材をデザインするのも楽しい仕事。一生かけて取り組むだけの価値がそこにはあるはず。あなたのサロンブランドのイメージ。花にたとえるならば、どんな花でしょうか?
                                                                                                    May.2010 ⑦月刊 NEXT LEADERより

うみすなの日々④

2012-02-02

≪コラム≫
~ ヘアのエナジー ~

 春から夏の匂いがしてきました。

 毎日のお客様のヘアーも夏のラインナっプへと変わってきています。強めのラインの短めボブはあごのラインからリップラインに上がったり、ミセスもオシャレなベリーショートに磨きをかけ、夏を待つ海のように色や形を少しずつ変化してゆっくりと、でも刺激的に日々過ぎてゆく。

 前髪がブラントな方は、その方の持つ強さがにじみでて、自分スタイルを持っている人であると思う。だから色々な経験の中でやさしさもたくさん持っていると思う。

 レイヤーロングの方は女子力があって相手に委ねる具合の良いバランス力を知っているだろう。どう見られているかという意識が高いので、姿勢の良い方も多いと思う。

 どう見られているかという意識が高い方だからこそ、こちらの提案もためされますね。

 ショートカットにプレゼンするのも海と砂原美容室では多いことです。

 カウンセリングはご本人とでもその方の周りの方やご家族もイメージします。

 彼氏や、旦那さまなどパートナーの皆さんとそのご本人を創っている気持ちでカウンセリングします。いつもサロンで切っている私たちの姿を信じてもらって、長い髪を大切に短くしていきます。落ちていく髪がお客様の信頼の気持ちだから。

 ご本人の良さを引き出すから周りの方々がOKをだす。すると周りの方々も変わりたくなるから、やさしくうちのドアを開けてくれるのでしょうね。

 美容は連鎖反応します。ドアからのやさしい風が途切れることのない仕事をし続けたい。

 ヘアスタイルを創るにはその方の気分や性格も出してあげたいし、日々を包むようにヘアースタイルが存在する。美容師はライフスタイルを提案する素敵な仕事。

 日々うれしい。

 分け目を決める時、思い出すことがある。

 妊娠した時に中心線がおへその下にでた。 個人の人生とそうではなくなるボーダーラインでもある証。生きずく証。

 だから分け目にも エナジーを感じます。エナジーの強さや、日々のやさしさを表現できて、フワッと包みながらハッとするようなヘアスタイル創りが好き。

 これが海とすなはら美容室の定番のお薦めスタイルです。
                                                                                                  June.2010 ⑥月刊 NEXT LEADERより

うみすなの日々③

2012-02-02

≪コラム≫
~ 猫と男は揺れるものに目がない ~

 いつもモテ女子とはほど遠いキャラクターで、低い声にパンツスタイルのメンズライクファッションな私はこう考える。容姿に携わるなら男目線と女目線の両方を持ち合わせるべきだ、と。

 ファッション誌を手掛けた時、店長になった時、そしてオーナー業にいそしむ今もその感覚を広く持っていたい。そんなことを考えながら、人と環境に深い関心を持ち続けていきたい女性の私は、男性の目線の先も気にしてきた。彼らは何を見ているのか、何を思って、何を欲しているのか?

 いろいろと感じられることはあった中で、美容と男性の目線についてひとつわかったことがある。それは「的」。男性たちは的があるとついつい狙ってしまうハンター気質なサガがあるということ。

 常日頃からアイデアの収集が大好きなので見渡してみると、世の男性陣はダーツやビリヤード、ゴルフなどの「的」があるゲームが好きらしい。これを置き換えてみると、的に当たるのは女性であり、女性の中に的が多ければ多いほどうっかり目で追ってしまうということ。

 男性ってなんて猫的で可愛くわかりやすいのだろうと思いながら、アイドルを担当している洋服のスタイリストのKさん(男性)に仕事の合間に聞いてみた。やはり昔はアイドルのスタイリングも“ひらひらゆらゆら”プラスお花かリボンに決め込んでいたという。それが最近では、「テクニック」も一般にまで自然に広がっているという。たしかにどの雑誌を眺めて見ても、どこかのポイントに必ずあの“ゆらゆら”が服にピアスにブーツまで。古着ミックスや森ガールなどの代表的なトレンドのスタイリングにもうまくかみ合うゆらゆら具合に脱帽である。

 実際、森ガールの撮影に入ってみると、これが納得の可愛さ。どのテイストも時代を超えて男性はこの魔法にかけられたままロングヘアやウエーブカールスタイルのショートやボブに魅せられていくのだなと深く納得。アップスタイルの毛先の揺れが大好きな人も多いでしょうね。

 私も20代、…いいや、もっと前から意識するべきだったのかもと振り返りつつ、刈り上げをなでてみたり…。
                                                                                                    May.2010 ⑤月刊 NEXT LEADERより

うみすなの日々②

2012-02-02

≪コラム≫
~ 砂原流教育論! ~

ひと昔前。女性のほとんどはコンサバ系だった。

 今や、綺麗の価値や美への感覚はより拡がり続け、時には鋭角的にもなり、ここ数年で日本の美容は見違えるほどに進化している。私にはそう見える。 

 わかりやすいところでアナウンサー。清潔感か高級感、どちらかを纏まとった女性たちの独壇場だった世界。今ではショートカットの方も増え、クイズ番組からバラエティまで。さまざまなタイプの女子アナが活躍をしている。そう、アナウンサーとしてのルックスの基準はなくなってきたのだ。

 私の担当する方の中にも「旧アナウンサールック」に飽きて来店された方は多い。そんな方達を支えるためにも、教育も日々進化させていきたい。

 私は、ずっと昔から1人ひとり違うプロセスの教育をしてみたいと考えていたこともあって、教育が「個人の才能を伸ばしきるためのプロセス」となるよう目指している。スタッフそれぞれを、適材適所、プロフェッショナルに育て上げることを何よりも重視している、と言えばカッコいいかも。

 スタッフには対価に関わらず向かっていくことを一生懸命させてみる。反面、あえて対価にもこだわる時期がある、と伝えている。最初は真っ直ぐにお客さまに向かいあい、寝食も忘れて取り組むことも一流を目指す技術者には必要だと思うのだ。

 小さい子供がどの子もクレヨンを好むように、美容が好きな気持ちや身体を衝き動かすその原動力は、美容を目指し続けた者にとってはシンプルで、消すに消せないもの。そこには一生をかけて取り組むだけの価値がある。

 そう思うからこそ、のんびり構えていようとは思わない。のんびりとお客さまを待つことなど下の子たちにはさせたくない。売れるにはスピードが必要なのだ。商品化した時点、つまりスタイリストになった時点で、その価値の高さはお客さまのリターンに比例する。

 技術は上手で当たり前。必要なのは自己分析を超越したアイデアマン。自分の魅力や自分の才能。それらをスタッフに理解させ、楽しんで美容に向き合わせることが革命を起こす。

 そのためにも、能動的に学ぶことのできる環境を作る必要がトップにはある。それを創るにはオーナーのパワーバランスがスタッフに強く向けられていないと難しいのは目に見えている……。

 そんなことを考えながらスタッフたちを眺めている。彼女たちの人生、はたまた命を親御さんからお預かりしていることを意識して、環境づくりに疑問を持ち続ける。サロンがオープンして1年。スタッフが心から美容に取り組めるために私ができること、ボーナスをつけたのもその1つだったりする。 

Apr.2010 ④月刊 NEXT LEADERより

うみすなの日々①

2012-02-02

≪コラム≫ 
~ 鮮度のある女 ~

 アトリエのある南房総から東京・目黒に向かっている。Spring、mini、PS。今日もいつ
ものようにファッション誌の撮影がある。

 連日撮影続きのこの一週間は睡眠もままならない。2日前にレッスンを見たサロンスタッフたちの腕の上がり具合が少し気になりながらも、彼女たちの成長の速度には驚くばかり。そんなことを考えながら、いつものように、夜鳴きに疲れてぐっすりと眠る娘のおでこにそっとキスをしてから薄暗いうち足早に家を出る。

 今日の私に覚悟して静かに車を出すと、次第に景色がヘアに見えてくる。グレーの道路でさえも毛束に見えてカーブの角度もなかなかのリッジとニヤリとする。撮影は着いてからが本番ではなく、着く前のこの2時間もかなりの勝負。うかうか運転だけをしていては、とっさの時にデザインの神が降りてこない。ほしいのは昨日の発想よりも今日の鮮度。常に新しさを求めて自分にほどよい緊張感をかける。

 あまり情報通でもないし、自分で広げていくのが好きなタイプ。人のコピーもヘタだと思うし、有能な販売員でもなかった。売上に不安を持ったことはないけれど、優越感があるわけでもない。自由な作風と言われることが多いけれど、変わらずにあることはというと、ヘアデザインが好きということだ。

 師匠のような北村道子さんに最近“隙間”の話を教えてもらった。骨と骨の間、骨と筋肉の間、みんな隙間があるからこそ肉体が自由になると言っていた。デザインの仕事も一緒だと思う。上手く隙間を使って自由にやれるかやれないか、考えているかいないかじゃないかなと。だから心の中では必死に“隙間”を広げてクライアントを十分に満足させつつ私の匂いをしっかり出せるか命を賭ける。普通のデザインならお誘いがこないのもわかっているから、だから鮮度のある今しか出てこないデザインが好き。言葉を持たないヘアにストーリーが見えてくるようにいろいろと感じてほしい。もっと受信してくれる人がたくさんいてほしいといつも深く願いつつ、今もヘアスタイルを創り続けている。

 ああもう目黒が近い。今日の撮影はバナナプランテーション(※)だ。確かフレッシュバナナ&バナナジュースが出てくるはず。栄養価が高いのに、エネルギーになるのも早い。そんなバナナって完成度高いよな~とか思いながら、もぎたてに期待して鮮度のある女になれるか、いざ勝負。 

                                                                                        ※目黒区の撮影スタジオ
Mar.2010 ③月刊 NEXT LEADERより

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